
電気自動車(以下、EV)のバッテリーの寿命、どうやって判断していますか?バッテリーの劣化状態を知るうえで欠かせない指標が「SoH(State of Health)」です。SoHは、EVのディスプレイに表示される数値で、バッテリー劣化の進み具合や交換の目安を知る重要な手がかりになります。知っておくと、EVや蓄電池のメンテナンスにも役立つでしょう。
本記事では、SoHの確認方法や劣化を防ぐポイント、そしてSoCとの違いを詳しく解説します。EVバッテリーの状態を把握したい方やこれからEVの購入を検討している方は、ぜひ最後までご覧ください。
SoHはバッテリーの健康状態がわかる数値
SoHとは、バッテリーの劣化状態を新品の状態と比較して測る数値です。EVのバッテリーはスマートフォンのバッテリーと同様に、使用を続けるうちに満充電から0%に低下するまでの時間が短くなります。
具体的には、SoHは新品を100%としたときに、バッテリーの劣化状態が何%かを数値で表す仕組みです。例えば50%になっている場合は、新品の満充電のときの半分しか充電できません。
現在「SoHの数値がどのくらいになると買い替えたほうがよい」という指標は存在しませんが、交換時期を判断する目安となるでしょう。
用語集:SoH
SoHとはここが違う!SoCは充電率の数値
SoHとよく比較されるEV用語が、SoCです。SoCは「State of charge」の略で、バッテリーの充電率を示し、走った分だけ消費され数値が下がります。
つまり、EVの満充電が完了している場合は100%、ある程度走行すると充電率の数値が少なくなります。実際、バッテリーは走るだけでなく外気温や放置時間によって放電反応を起こすため、使用状況にかかわらず充電率は自然に減少するため注意が必要です。
ガソリン車のガソリン残量と同様に、EVではSoCが充電残量としてメーターパネルに表示されます。ただし、メーターパネルに記載されるのは実行電力量で、カタログに書かれた数値とは異なるため注意しましょう。
なお、バッテリーの劣化や安全性を考慮すると、10%程度のSoCはないものとしてメーターパネルに表示されません。
用語集:SoC
SoHの確認方法
SoHの確認方法はメーカーによって異なります。まずはご自身の車種に合った確認手順を調べてみましょう。以下では、日産とマツダの確認方法を紹介します。
日産
日産の電気自動車「サクラ」「リーフ」「アリア」では、ステアリング前方に設置された「アドバンスドドライブアシストディスプレイ」で、SoH(バッテリーの健全性)を確認できます。ハンドル左側の◀︎▶︎ボタンを押してEV情報の画面に切り替え、▲▼ボタンで項目をスクロールすると「バッテリー容量計」が表示される仕組みです。
SoHの値は、使用年数や急速充電の頻度が高まるにつれて、徐々に低下します。なお、日産では通常の利用環境下において、新車登録から8年または16万km以内にSoHが80%を下回った場合は、保証の対象となります。
マツダ
MAZDA MX-30のEVモデルの場合、SoHの数値はダッシュボードの中央にあるセンターディスプレイで確認できます。情報を選択し、車両ステータスモニター、メンテナンス詳細情報、電池最大容量を選択するとバーグラフによりチェック可能です。
10.25インチのセンターディスプレイは、標準装備で、SoHの確認以外にもオーディオやナビゲーションシステムとも連携しているため操作できます。
SoH計測機器の開発も進行中
SoHを表示できないメーカーもあるため、複数の企業からSoHを測定する機械が開発されています。以下では、2つの取り組みを紹介します。
三洋貿易:EverBlüe Drive ETX010
三洋貿易から販売されているEverBlüe Drive ETX010は、急速充電口に差し込むとSoHが測定できます。アプリを連動させることで、約30秒の早さでSoHの数値を確認できる点が強みです。
日本でメジャーな急速充電規格CHAdeMOの充電口があれば、EVもPHEVも測定できます。750gとコンパクトな筐体は、2025年2月に開催された第22回 国際オートアフターマーケット EXPO 2025で展示され、EVユーザーや関連企業から注目を集めました。
大阪ガスとKRIで社用車の実証実験
大阪ガスとその子会社であるKRIは、大阪ガスで使用しているEV社用車を利用して実証実験を開始しました。
さまざまな人が運転し、使用状況が異なるEV社用車は、個人で所有するEVに比べてバッテリーが今後何年使えるかを把握しにくい側面があります。そこで、分析や評価を得意とするKRIがバッテリーの劣化診断や寿命予測の研究を進めています。
実験が成功すれば、今後はSoHだけでなくバッテリー寿命の延ばし方や、バッテリーに負担をかけない使い方を提言できるでしょう。
SoHを維持するコツ3選
EVのバッテリー寿命は使用状況によって左右されますが、多くのメーカーでは「8年または16万km」を目安としています。ここでは、バッテリーの健康状態であるSoHをできるだけ長く保つためのポイントを紹介します。
できるだけ普通充電を使用する
普段の充電では普通充電を使用すると、SoHを維持できます。普通充電は急速充電に比べて、ゆるやかに充電をするため、バッテリーにかかる負担を抑えられることがメリットです。そのため、SoHが下がりにくいといえるでしょう。普通充電は時間がかかるデメリットがあるものの、寝ている時間や家でくつろいでいる時間を充てれば、効率よく充電できます。
一方、急速充電は短時間で充電できますが、バッテリーに負担がかかることがデメリットです。SoHをできるだけ維持するためには、普通充電がおすすめです。
SoCの数値を20~80%の範囲で管理する
SoCを20%~80%の範囲で充電すると、バッテリーの劣化を抑えられます。バッテリーは、SoCが100%に近い状態で充電し続ける過充電や0%のまま放電が続く過放電を起こすと劣化が早まります。
温度差のある環境を避ける
SoHを良好に維持するためには、EVを駐車する場所の極端な気温差を避けることが重要です。EVのバッテリーは高温や低温に弱いため、極端な温度環境ではSoHの数値が下がりやすくなります。
特に高温下では、バッテリー内部での化学反応が活発になり、寿命を縮める原因になりかねません。反対に、低温下でもバッテリーの性能が低下し、充電効率が悪化する可能性があります。
そのため、直射日光の当たる場所や極端に寒い場所での駐車は避け、可能な限り屋内や日陰に駐車しましょう。
SoHによって進化する未来
SoHは、EVユーザーでも意識していない、または把握していない場合があります。しかし、SoHには以下のような未来へ進化を遂げる可能性を秘めています。具体的にどのような未来が待っているのか見ていきましょう。
状態の良い中古EVを買えるようになる
EVの普及が進むにつれて、今後は新車だけでなく中古EVの市場が拡大するでしょう。その際、SoHは中古EV選びの重要な判断材料になります。ガソリン車における走行距離のように、バッテリーの劣化度を数値で把握できるSoHは、購入後のトラブル回避にもつながるでしょう。
ただし2025年5月現在、SoHに明確な基準はありません。EVのバッテリー交換には100万円以上かかることもあり、適切な中古EVを選ぶためにはSoHの確認が不可欠です。
以下では、EVの中古車のメリットデメリットをまとめています。気になる方はぜひご確認ください。
電気自動車の中古は本当にお得?メリットとデメリットをチェック!
全固体電池の普及で数値が下がりにくくなる
バッテリーの劣化を抑えるものとして注目されているのが、全固体電池です。全固体電池とは、電池の構成がすべて固体のもので、現在主に使われているリチウムイオン電池よりもバッテリーの性能向上が期待されています。温度変化にも強く、発火リスクも低減されるため、普及すればSoHの数値も下がりにくくなるでしょう。
2025年5月現在、全固体電池の実用化は未定ですが、ホンダや日産、GSユアサなどが開発を進めており、将来的にEVの信頼性を大きく高める技術として注目されています。
バッテリーが適切にリユースされるようになる
SoHが数値で可視化されると、EVバッテリーの状態を正確に判断でき、再利用(リユース)の判断がしやすくなります。デンソーやフォーアールエナジーでは、使用したEVバッテリーを回収して、新たに資源としての活用や再利用するためのシステムの構築に取り組んでいます。
バッテリーのリユースは、資源の有効活用や廃棄物の削減にもつながり、持続可能な社会の実現にも貢献できるでしょう。今後は、SoHを基準としたバッテリー評価がリユース市場の整備を後押しすると考えられています。
まとめ
本記事では、EVのバッテリーの健康度を示す「SoH」について解説しました。SoHは、新品を100%としたときの劣化具合を数値で表す指標です。日産やマツダ車では車載モニターで確認でき、専用機器を使えば他メーカーのEVでも測定が行えます。
急速充電の多用や過放電はSoHの低下を加速させるため、普通充電を中心に、充電量は20〜80%の範囲で管理するのが望ましいでしょう。また、EV保管の極端な温度差を避けることで劣化の進行を抑えることができます。今後は数値に基づいた中古EVの選び方や適切なリユースも期待されています。
