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砂漠のど真ん中にありながら「エアコン不要」な学校

ARCHITECTURE | 2022.06.20

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砂漠のど真ん中にありながら「エアコン不要」な学校

十年程前まで、ここ日本においてもエアコンが設置された学校はほまだ少なく、夏は汗を流しながら授業を受けていた人も多いだろう。

近年は地球温暖化が進むとともに校内で熱中症になる子どもも増えたため、ここ数年で学校へのエアコンの設置が急速に進んだが、日本よりずっと暑い場所であるにも関わらず「エアコンを設置しない」学校が新たに作られたのだという。
その場所はなんと、地球温暖化の影響をより強く受け、暑さに苦しんでいるインド。しかもその学校は、砂漠のど真ん中に位置しているというのだ。果たしてこのような場所で、エアコンなしで授業を受けることが可能なのだろうか。

外気温45度の砂漠に作られた、女子校

インド・タール砂漠の中にある都市ジャイサルメールに作られた、ラージクマリ・ラトナヴァティ女子校。
女性の識字率が35%に満たないこの地域の貧困層に暮らす女の子を対象に、非営利団体CITTAが開校したものだ。

ここでは4歳から16歳まで400人以上の生徒が、外気温45度の猛暑をものともせず授業に参加している。
独自のサステナブルな設計により涼しさを保っているため、エアコンも必要ないのだという。

まず、何と言っても特徴的なのは、上空から見ると息を飲むような「楕円形の建物」だろう。
836㎡にも及ぶこの建物は、大きな外壁が学校の外周を囲み、中央には大きな中庭がある。

「中庭にいる生徒のために、日陰ができるようなデザインにしようと考えました。そのためには、楕円形が最も自然な形なのです」と、同校の設計を手掛けた建築家のDiana Kellogg氏は説明している。

自然の力を活用し、快適な環境とサステナブルを両立する設計

屋上にあるソーラーパネルは建物に電力を供給し、日陰をつくるキャノピーとしても機能。
壁に採用されているジャリス(穴のある格子状の石組み)は、吹き荒れる砂嵐から生徒を守ると同時に、通気性を高め自然光も取り入れられるようになっている。

そして、エアコンの代わりに活用されているのはなんと「地熱の冷たさ」。
屋上のソーラーパネルとジャリスの壁、内壁に塗られた石灰漆喰で熱を遮断し、楕円形の形状やファンを利用することで、冷たい空気を室内に取り込んでいる。つまり断熱性を高めた上で適切な空気の流れを作ることにより、室内の冷却を行うという仕組みだ。

さらに学校全体に集水システムが設置されており、雨水を再利用することもできる。
機械や動力に頼らず、自然光や風の流れを活用。太陽の高さや風の向きまで織り込んだ設計は、子どもたちに快適な環境を提供するとともに、サステナブルにも役立っている。

女性の自立と、地域の生活向上のために作られた道標

外気温が高くても砂嵐が発生しても生徒たちが安心して学ぶことができるこの建物は、サステナブルであると同時に象徴的なものでもあるそうだ。

「女性のために設計する女性建築家として、文化において女性の強さを表すシンボルに注目し、女性らしさと無限性を表す3つの楕円を組み合わせた構造にたどり着きました。また、ジャイサルメールの砂岩のように、自然の風景に溶け込み、同時に成長するような建物を作りたいと考えたのです」と、Kellogg氏は述べている。

またCITTAは、この学校を含む複合施設「GYAANセンター」を建設する予定にしており、地域全体がこの複合施設から恩恵を受けることを望んでいる。

たとえば学校には地元の砂岩が使われ、地元の建設業者(多くは生徒たちの父親)によって建てられたということもその1つ。
さらにこの学校のほかに2つの建物が作られ、1つ目の建物には図書館や博物館、アートの展示スペースが入り、2つ目の建物には地元の職人が女性に機織りや刺繍技術を教える「女性協同組合(Women’s Cooperative)」が入る予定だそうだ。
GYAANセンターは女性に教育と自立のためのツールを提供し、インドの女性が直面している問題に対する世界的な認識を高めることを目的とするものである。

「生徒たちに真のインパクトを与えるには、女性に何ができるのかという意識を変えることが必要です。これはそのための第一歩です」と、CITTAの創設者兼エグゼクティブ・ディレクターのMichael Daube氏は述べている。


Source: Inside the Indian eco-school that proves sustainable design doesn’t scrimp on style

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TEXT:
倉若太一 ( Instagram )

PLUGO JOURNALニュースライター。企業・利益中心の開発はいかがなものかと疑問を持ち始めました。いつまでもあると思うな親・金・資源。

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