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伝統文化の 「持続可能性」への挑戦
長瀞を含む秩父エリアは山に囲まれ、稲作に向かない土地だった。
近代日本において、それは「別の生きる道を探す」という課題がその土地に住む人に課せられることを意味していた。
そして生まれた「秩父銘仙」は今、新たな挑戦をしようとしている。
稲作に向かない土地に生まれた
秩父銘仙
この旅には「楽しみたいことだけを楽しむ」というキャンプ以外に、もう1つの目的があった。
電力の併用でキャンプギアを減らすことのできるEVキャンプ旅ならではの身軽さで、帰る前にもうひとつの目的に行ってみることにしよう。
それがこの、秩父銘仙だ。稲作に向かない土地に根付いたのが養蚕であり、自然と染色、織物の文化が花開いた。
表裏のない平織りで何度でも仕立て直しができることから、大正から昭和初期にかけて人気を得た秩父銘仙は、この土地を大いに発展させたという。
今の時代に残したい。
伝統は引き継がれ、
生まれ変わる
絶大な人気を誇った秩父銘仙も、着物文化の衰退とともに縮小を余儀なくされる。
かつては養蚕、製糸、デザイン、染色、機織り…といくつもの専門に別れた工房によって作られていたが、ひとつ、またひとつと工房は廃業していく中「全行程をまかなえる工房が必要だ」とこの秩父織塾工房を作ったのが、この横山さんの父だそうだ。
「先見の明があったんでしょうね。今では秩父銘仙を作れる工房はここを入れて3つだけになりました」
と横山さんは語る。
代表取締役・横山大樹さん
伝統を
いかにして残すか
もともとはデザインの仕事をしていたという横山さんは、祖父、父と引き継がれてきた工房の三代目だ。
「やっぱり、この秩父銘仙という伝統がなくなってしまう寂しさがあったんでしょうね。自分が継いで、なんとか生き残らせたいという思いで続けています。
着物の需要が昔のように戻ることはないでしょう。であれば、売り方や稼ぎ方を変えなくてはいけない。本当は一反そのままを着物にしてほしいとは思いながら、マスクや巾着を作ってなんとか身近に感じていただきたいと思っています。
あと、体験工房も作りました。夏の観光シーズンには多くのお客さまに来ていただいていますよ」
時代に合わせて
変わるもの、
変わらないもの
裏表がなく、何度でも仕立て直すことのできる秩父銘仙について横山さんは「今なら、サステナブルなんて言葉で表現できますね」と言う。
サステナブル、持続可能性。ついつい「環境」のことに目が向きがちだが、こうして伝統的な技術を守り、伝えていくことも「持続可能性」のひとつだ。ただ美しいもの、品質の良いものが必ずしも持続できるわけではない。時代に合わせた変化を受け入れることも、時には大切だ。
サステナブルの
ありかたを考える旅
EVは、化石燃料を使わず排気もないサステナブルな移動手段としていま、注目を集めている。キャンプもまた、自然に直接触れることで環境のサステナビリティを考えるきっかけとして注目されている。
この2つを組み合わせ、無理をせずに楽しめる旅が、今回の大きな目的だった。
自分なりに「サステナブル」という言葉を体感したかったのだ。
しかしこうして伝統文化を残そうと奮闘する人の姿を見ると、その言葉の幅広さを感じずにはいられない。
「持続する」というのは「変わらない」ことではなく、積極的に変わりながら「変えたくないものは何か」と考えることなのだろう。