
カーボンニュートラルの実現に向けた取り組みが進むなか、日本政府は2050年までにガソリン車の利用を廃止する方針を掲げています。そこで注目されているのが、ガソリン車を電気自動車(以下、EV)へと改良する「コンバートEV」です。
コンバートEVは、環境への配慮やレトロカーの再生手段としても関心が寄せられています。映画ワイルドスピードに登場した日産「スカイラインGT-R」やルパン三世でおなじみのフィアット「500(チンクエチェント)」などの名車も、EVとして生まれ変わることが可能です。
本記事では、コンバートEVの仕組みや改良にかかる費用など、気になる疑問を解決します。ぜひ最後までご覧ください。
コンバートEVとは
コンバートEVとは、ガソリン車がEVとして生まれ変わった新しい形の車です。以下では、その仕組みと誕生の背景、現在の位置づけを紹介します。
コンバートEVの仕組み
コンバートEV(コンバージョンEVとも呼ばれます)は、ガソリン車の車体を活かしたまま、内燃機関を電動モーターに載せ替えることでEV化する技術です。
この技術を用いることで愛車の外観をほとんど変えることなく、内部の機能のみをアップデートしてEVにできます。量産型の新車とは異なり、1台ずつ車の状態に合わせた部品を用意し、職人が組み付けることで完成する、オーダーメイドのEVです。
世界的な環境への配慮から登場
世界的な環境意識の高まりを背景に、自動車の電動化が急速に進んでいます。そんななか、古き良き車を未来へ受け継ぐ手段として、1990年代のアメリカでコンバートEVが誕生しました。当時は、現在主流のリチウムイオンバッテリーではなく、鉛バッテリーが使用されていたため、航続距離や実用性の面で大きな制約がありました。しかし、その後の技術革新により、航続距離の延長や充電時間の短縮など、EVとしての性能が大きく向上しています。
愛車と長く付き合う方法として、またロマンあふれる旧車を復元する方法として注目が集まっています。
国が認めた旧車のデザインを継承する技術
コンバートEVは、旧車の魅力的なデザインや個性を現代に受け継ぐ技術として、経済産業省からもその価値が認められています。日本におけるコンバートEVの先駆けであるOZモーターズのコンバートEVは、2021年にグッドデザイン賞を受賞しました。
グッドデザイン賞の審査委員は、コンバートEVについて「情緒的・感性的価値の高い旧車をEV化し、現代に再生する取り組み」と高く評価しています。また、旧車は構造やシステムがシンプルであるため、エンジンからモーターへの載せ替えが比較的容易である点も、合理的な技術として注目されています。
コンバートEVのメリット
コンバートEVは旧車への未来を残しつつ、環境やメンテナンス面でも多くのメリットがあります。ここでは、コンバートEVのメリットを4つ紹介します。
旧車を未来へ残せる
コンバートEVの一番のメリットは、昔懐かしい旧車を未来へ残せることです。動かなくなってしまいガレージに眠っている車も、動力源を変えることでよみがえらせます。
ガソリン車は、エンジンやトランスミッションなど可動部品が多く、摩耗や劣化が避けられません。一方、EVならモーターで走るため車両が長持ちしやすいという強みがあります。そのため、お気に入りの1台に長く乗り続けられるほか、親から子へ受け継ぐことも可能です。
メンテナンスが減る
コンバートEVは、エンジンを電動モーターに換装することで、旧車特有のメンテナンスに関する課題を大幅に軽減します。旧車は、部品が高額だったり入手困難だったりするうえ、専門的な知識や技術が必要です。また、エンジンの経年劣化による故障も多く、維持管理に多くのコストと手間がかかります。
しかし、動力源がモーターに変わることで、必要な部品の入手が容易になり、故障リスクも大幅に低減します。その結果、旧車をより長く、安心して楽しめるでしょう。
環境に配慮できる
コンバートEVは、動力源をモーターに切り替えることで、走行時の排出ガスがゼロになります。従来のガソリン車は、エンジンでガソリンを燃焼させて動力を得るため、二酸化炭素や窒素化合物など、人間や生態系に有害な成分を含む排気ガスを発生させるという課題がありました。
一方、モーター駆動のEVにコンバートすることで、走行時の排出ガスがなくなり、環境への負荷を大幅に軽減できます。また、現代の厳しい環境規制を満たしていない旧車であっても、EV化することで最新の環境基準をクリアできる点も大きなメリットです。
カスタマイズ性が高い
コンバートEVは、部品を自由に組み合わせてカスタマイズできる点が大きな魅力です。1台ごとに車両の個性やオーナーのニーズに合わせて改良を施すため、高いカスタマイズ性を実現できます。
例えば、長距離ドライブを重視する方はバッテリー容量を増やしたり、自宅での充電を便利にするために200Vの充電ポートを追加したりと、用途に応じた仕様に仕上げることが可能です。ただし、構造的にすべてのガソリン車がコンバートEVに対応できるわけではないため、事前の確認が必要です。
コンバートEVは、車両やパーツの選択肢が豊富に揃っているため、世界に1台だけのオリジナルカーを作り上げられます。
コンバートEVのデメリット
魅力の多いコンバートEVですが、いくつかのデメリットも存在します。ここでは、コンバートEVのデメリットを2つみていきましょう。
改良費用が高額になる
コンバートEVは、1台ごとに個別の設計や実作業、部品調達が必要となるため、どうしても費用が高額になりやすいというデメリットがあります。一般的な価格は500万〜1,000万円以上とされており、新車EVよりも高額になるケースもあります。また、EVは静音性が高く、エンジン音や振動も失われるため、運転体験が大きく変わります。
新車として販売されているEVよりもコストがかかるケースが多い一方、航続距離は控えめな傾向にあります。ただし、近年ではコンバートEV用のキットが開発・販売されるようになり、各メーカーが価格を抑えるための工夫を重ねています。
現状では、コンバートEVのオーナーは企業経営者や医師など、高額な改造費を負担できる方が中心です。しかし、今後さらに安価なキットの開発が進めば、より多くの人が手頃な価格でコンバートEVを楽しめるようになるでしょう。
ガソリン車の魅力をすべて継承できるわけではない
コンバートEVは、旧車の魅力をすべてそのまま残せるわけではありません。特にマニュアル車を愛用している方にとっては、運転の楽しさや操作感が物足りなく感じられることもあるでしょう。これは、エンジンをモーターに改良することで、マニュアル車であってもオートマチック車と同様の運転スタイルに変わってしまうためです。
さらに、旧車ならではのエンジン音を楽しむこともできなくなります。モーター駆動のため走行音は非常に静かで、マフラーが設置されないことも珍しくありません。この点は、運転がより快適になり、住宅街などでも騒音を気にせず走行できるメリットとして捉えることもできるでしょう。
日本でコンバートEVに愛車を改良するなら
愛車をコンバートEVにしたいと考えた場合、どのような方法があるのでしょうか。ここでは、日本国内でコンバートEVの改良を手がける主な業者を紹介します。
OZモーターズ
神奈川県にあるOZモーターズは、コンバートEVを日本でいち早く開発した企業です。過去には、BMW「イセッタ」やホンダ「シビック タイプR」などをEVへと改良してきました。
費用は500万円からで、エントリークラス、ベーシッククラス、ミディアムクラス、プレミアムクラスと車両に合わせて価格が決まります。ホームページのお問い合わせページから依頼が可能です。
株式会社アプデエナジー
滋賀県に拠点を構える株式会社アプデエナジーは、環境とお財布と心に優しいエネルギーの選択肢を作る理念を持った企業です。費用は300万円~1500万円と、コンバートEVの改良費としては手頃といえるでしょう。
フランチャイズ加盟店を募集しており、今後のコンバートEV普及に一役買うことが期待されています。ホームページに記載されている電話番号、またはメールフォームから依頼可能です。
カレント自動車株式会社
神奈川県に本社を置くカレント自動車株式会社は、輸入車や旧車の買取事業も手がけています。コンバートEV事業では、輸入や買取のノウハウを活かし、愛車だけでなくベースとなる車探しからサポートが可能です。
同社は、フィアット「500トポリーノ」やモーリス「トラベラー」などのコンバート実績もあります。依頼はホームページ記載の電話番号やメールフォームから受け付けています。
まとめ
本記事では、コンバートEVについて紹介しました。コンバートEVは、ガソリン車をEVへ改良する新しい車の形です。カーボンニュートラルを目指す社会の中で旧車を後世に残す手段でもあります。
旧車らしさが失われるというデメリットはあるものの、メンテナンスコストの軽減や排気ガスゼロといったメリットも多くあります。大切な1台を次の世代へ受け継ぐ手段として、コンバートEVを選択肢に加えてみてはいかがでしょうか。
