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さまざまなタイプの電気自動車(以下、EV)が発売されるなか、ガソリン車でも人気があるSUVタイプのEVに注目が集まっています。SUVはオフロードや雪道もスムーズに走れるパワフルさが魅力です。しかし、電気を動力とするEVでもガソリン車と同じようにパワーを発揮できるのか疑問に感じている方もいらっしゃるでしょう。
EVを取り巻く環境は、日進月歩で進化しています。航続距離が大きく伸び、充電ステーションもガソリンスタンドの数に迫る勢いで増加中です。私たちの身近な存在になりつつあるEVですが、なかでもパワフルで航続距離の長いSUVは、コンパクトEVとは異なる魅力があります。
当記事では、SUVのEVについて、特徴や注意点をお伝えします。読むことでその魅力を理解できるでしょう。
SUVのEVその魅力と特徴
デザイン、機能性ともに人気のあるSUVですが、EVならではの魅力もあります。ここでは加速性能や航続距離、安定性について解説していきます。
加速性能
EVはガソリン車に比べてスムーズに加速することが特徴です。エンジンの回転数に合わせて、徐々に加速するガソリン車とは異なり、EVのモーターはアクセルを踏んだ瞬間から最大のトルクを発生させることができます。
さらにコンパクトEVに比べて車体の大きいSUVは、モーターの最高出力も高い傾向です。例えば、日産アリアの最高出力は160kWで、馬力に換算すると218馬力となります。軽EVの日産サクラの最高出力が47kW(64馬力)なので、3倍以上のパワーがあるということです。
航続距離
EVが満充電で走行できる距離が航続距離です。SUVには大容量のバッテリーが搭載されています。EVのバッテリーは、ガソリン車で例えるなら燃料を貯めておくガソリンタンクです。たくさんの電力が貯められる大容量のバッテリーにより、SUVは航続距離も長いといえます。少ない充電回数で長距離を快適に走行することが可能です。なかには航続距離が500㎞以上のEVもあります。
安定性
EVは、車体の底部にバッテリーが搭載されています。この構造は、他の普通車に比べて車高が高いSUVにとって好都合なフォルムです。なぜなら、バッテリーの重量で重心が下がり、走行の安定性を高めることができるためです。
高い車高は走行中に抵抗ができ、横揺れ(ロール)の原因になります。車体の重心が下がることでロールを防ぎ、安定性のある乗り心地が実現します。EVのバッテリーの重さは車種によって異なりますが、250~600㎏です。ガソリン車のエンジンは100~200㎏程度なので、比較すると相当な重量といえるでしょう。
SUVのEVはこんな人におすすめ
機能性や高い走行性能から、幅広い層にニーズがあるSUVですが、ここではEVとしての魅力をまとめました。
長距離走行が多い
SUVは、コンパクトEVに比べて航続距離が長いことが特徴です。コンパクトEVは、街乗りなど市街地での短距離走行をコンセプトにしたものがほとんどですが、SUVは街乗りだけでなく、長距離ドライブも快適に楽しめます。SUVには航続距離400㎞以上の車種が多くあるため、旅行や出張など遠方へ行く機会の多い方にもおすすめです。
アウトドアを楽しみたい
オフロードや雪道など悪路をいとわないSUVは、アウトドアにも最適です。大容量バッテリーが搭載されているため、長時間の旅や長距離ドライブにも対応できます。
また、アウトドアでは照明や調理器具などの電化製品にEVから給電することも可能です。EVに貯まった電気は直流のため、交流に変化するための専用変換アダプター(ヴィークルパワーコネクタなど)を急速充電口に取り付けて使用します。
急速充電器のEVを活用すれば、アウトドアアクティビティの可能性がますます広がるといえるでしょう。
蓄電池としての活用を検討している
EVは、停電や災害などの緊急時に蓄電池として活用できます。ただし、蓄電池として利用するには、EVから家庭に給電するためのV2H(Vehicle to Home)が必要です。V2Hの設置は、採用する機器によって異なりますが、機器と工事費用合わせて80~200万円程度の費用がかかります。
4人家族で1日に必要となる電気の使用量は、およそ18.5kWhです。例えば日産アリアなら65kWh以上のバッテリー容量があり、満充電にしておけば3日分の電力を賄えます。家庭用として販売されている蓄電池よりも容量が大きいため、万が一の際の電力を蓄えておくのに便利です。
SUVのEVの注意点
魅力的な特徴が多いSUVですが、一方で注意点も考慮する必要があります。SUVの利便性や安全性を最大限に活かすためにも、以下について確認しておきましょう。
航続距離は記載されている距離より短いことが多い
SUVの航続距離は250~500㎞以上と、コンパクトEVに比べると距離が長いのが特徴です。しかし、カタログに記載されている航続距離はあくまでも目安です。
SUVに限らず、EVの航続距離は気温や走行の仕方によって変化するため、実際には記載された航続距離の7割程度と考えましょう。EVの乗車時は、いつでも充電できるよう充電ステーションの位置情報を把握しておくことが大切です。
雪山など寒冷地では特に電力を消耗しやすい
EVは、気温に左右されやすい特徴があります。例えば、日産アリアはその走行性からアウトドアに適していますが、気温の低い雪山などではバッテリーの保護や車内を温めるための電力が普段より余計に必要です。
特に4℃以下の低温下では、バッテリーのパフォーマンスが低下します。特にSUVのバッテリーは容量が大きいため、充電に時間がかかることも考えられます。冬場や寒い場所では、充電量と時間に余裕を持つことが大切です。
SUVのEVおすすめ5選
さまざまなメーカーからSUVのEVが販売されていますが、そのなかでも特に評価の高いおすすめのSUVを5つご紹介します。それぞれの特徴をチェックして、ぴったりのSUVを見つけてください。
メーカー | 車名 | バッテリー容量 | 航続距離 | サイズ(㎜) | 価格(税込) |
日産 | アリア B6 |
66kWh | 470km | L4595×W1850×H1655 | 659万円~ |
スバル | ソルテラ ET-SS(FWD) |
71.4kWh | 567km | L4690×W1860×H1650 | 627万円~ |
マツダ | MX-30 EV MODEL (2WD) |
35.5kWh | 256km | L4395×W1795×H1565 | 451万円~ |
BYD | ATTO3 | 58.5kWh | 470km | L4455×W1875×H1615 | 450万円~ |
スズキ | eビターラ | 49kWh | 344km | L4275×W1800×H1635 | 未定 |
日産 アリア
アリアには2WDと4WDタイプの2種類があります。前輪と後輪それぞれに高出力モーターが搭載されたe-4ORCEは、日常走行から滑りやすい路面まで、あらゆる路面に対応した走行を実現します。誰もがスムーズに思い通りのドライブを楽しめるでしょう。
スバル ソルテラ
スバルにはトヨタと共同開発したスポーツカータイプのガソリン車BRZがあります。ソルテラもBRZ同様、トヨタとの共同開発で誕生したEVで、トヨタbZ4Xとは兄弟車になります。それぞれのタイヤにかかる力をモーターが緻密に制御する前後独立型モーターAWDで、滑りやすい路面でも安定して走行可能です。
なお、現行モデルは生産が終了しており、2025年の後半にも改良モデルの販売が予定されています。
マツダ MX-30EV MODEL
他メーカーのEVと比べると35.5kWhとバッテリー容量が控えめですが、CO2排出量の削減を目指し設定されたモデルです。五感でドライブを楽しめるよう、EVではなかなか味わえない独自の走行音を開発するなど、ドライバーに嬉しい工夫が施されています。
BYD ATTO3
BYDは、中国の電池メーカーから誕生しました。自動車メーカーとしての歴史は浅いものの、EV販売台数は今やテスラに続いて世界2位と、驚異的な成長を遂げています。日本国内でも、2025年までに50か所のディーラーを展開する予定です。BYDが独自で開発したブレードバッテリーは、EVの課題である高温になりやすいというEVの課題をクリアしています。
スズキ eビターラ
スズキのeビターラは、日本で2025年中に発売予定のSUVです。スズキ初のEVで、アイシンやデンソーなどのが開発したeアクスルが搭載されます。日本での価格は現在未定なものの、7月に英国で販売予定の価格は、585万円からです。
ギア、モーター、インバーターなどのEVを動かす主要な部品を一体化させたeアクスルについて気になる方は、以下の記事がおすすめです。
内部リンク:eアクスルとは?EVシフトを進める駆動ユニットの重要性を解説
用語集:eアクスル
SUV以外のEV車種解説
環境に配慮され電気を動力とするEVは、SUV以外にも軽自動車やセダンなどがあります。ここではSUVと比較して、その他のタイプのEVについて特徴や強みなどを紹介します。
軽EV
軽EVはコンパクトで維持費が安く、都市部での取り回しやすさが魅力です。一方、SUVのEVは軽EVと比較すると、悪路走破性や高い視点という魅力があります。さらに、積載性に優れ、アウトドアや日常使いなど多目的に使用できます。
軽EVは日常使い向きで、SUVのEVはレジャーまで幅広く対応する車です。なお、軽EVについての詳細は、以下の記事をチェックしてみてください。
内部リンク:軽EVの価格を徹底分析!おすすめ車種やメリットやデメリットも解説
セダンEV
セダンEVは、航続距離が長いうえ、安全性が高く、上質な乗り心地という特徴があります。SUVのEVと比較すると、サイズが大きいため小回りしにくい点や価格が高いデメリットがあります。
高級感のあるモデルが多く、ラグジュアリーな空間を好む方におすすめです。セダンEVについて詳しく知りたい方は、以下の記事を確認してください。
内部リンク:電気自動車(EV)のセダンおすすめ5選!特徴や選び方も解説
ミニバンEV
2025年6月時点の日本ではEV仕様のミニバンは販売されていません。しかし、フォルクスワーゲン「ID.Buzz」が2025年夏に日本発売予定と公式発表されており、今後の普及が期待されます。
ミニバンは、7~8人程度乗車できるサイズのため、荷物の多いファミリー層や旅行好きに人気です。SUVは、ミニバンよりも走破性が高いことやデザイン性に魅力があるという見方もあります。
海外では、VOLVOの「EM90」やBYDの「デンツァD9」などのミニバンが販売されており、今後日本でも普及する可能性は高いでしょう。ミニバンEVについて日本で販売される時期やその魅力については、以下の記事にまとめています。
内部リンク:ミニバンEVはいつから日本で販売されるのか!|国内の状況を解説
商用バンEV
商用バンEVは維持費の低さから、物流コストを抑えるために導入する企業が続々と登場しています。例えば、2023年6月にはヤマト運輸とホンダが実用性の検証を行いました。
2024年には日産「クリッパーEV」やホンダ「N-VANe:」、三菱の「ミニキャブEV」が販売され、注目を集めています。商用バンのEVはビジネス向け、SUVのEVは個人やファミリー層向けといった違いがあります。
SUVのEVにおける現状やトレンド
SUVのEVは、環境への配慮や技術革新によって成長の一途をたどっています。ここでは、その現状やトレンドについて見ていきましょう。
世界と日本の市場動向
世界のEV市場ではSUVタイプの人気が高く、中国や欧州で新型EVのSUVが多く登場しています。特に、中国ではBYDが大型SUVのPHEV(プラグインハイブリッド車)をの開発を強化し、航続距離や実用性を重視したモデルが量産中です。
日本市場では、SUVタイプのEV投入が進みつつあるものの、充電インフラや価格面の課題から欧米中に比べて普及は緩やかです。今後もSUVタイプのEVは世界的に成長が見込まれています。
主要メーカーの今後は?
主要自動車メーカーは、新たなEVモデルの販売を予定しており、技術革新や生産体制の強化を進めています。ここでは、各社の現状や今後についてSUVの情報も合わせて解説します。
日産
日産は、長年培ったEV技術を活かし、SUVタイプの「アリア」などを中心にグローバル展開を強化して行く予定です。長期ビジョン「Nissan Ambition 2030」を掲げ、2050年までのカーボンニュートラル実現とゼロ・エミッション車の普及を目指しています。
車両のEV化や技術開発のために、今後5年間で2兆円の投資する日産は、2030年度までに19車種のEVを含む27車種の電動車を導入予定です。2025年3月には、今年度には新型「リーフ」がクロスオーバーSUVタイプとして登場し、米国とカナダを皮切りに日本市場への投入予定だと発表されました。
ホンダ
ホンダが販売しているEVは、現在は軽EVである「N-VANe:」にとどまっていますが、2025年秋に同じNシリーズのEVモデル「N-ONEe:」が発売予定です。ホンダは、HEV(ハイブリッド車)やFCEV(燃料電池車)のラインナップも随時追加していく方針です。
さらに、2025年1月にはHonda 0(ゼロ)シリーズを打ち出していくことを発表しました。第一弾として「Honda 0 SUV」を2026年に北米から販売をスタートさせます。2025年5月にはEV市場の拡大スピードに合わせて、HEVも強化していくと明かしています。
VOLVO
世界的人気を誇るVOLVOでは、EVだけでなくPHEVなどを合わせた車種だけの世界を作ろうという目標を掲げています。日本ではコンパクトSUVのEVである「VOLVO EX30」が人気を集めました。
なお、VOLVOは2024年1〜4月の累計販売台数が輸入EVで1位を記録しています。
ヒョンデ
ヒョンデは、韓国を代表する自動車メーカーです。世界第3位の販売台数を誇り、ガソリン車からEVまで幅広い車種を展開しています。現在日本で発売しているのは、コンパクトSUV「KONA(コナ)」をはじめ、5種類のEVと1種類のFCEVです。
今後は「Hyundai Way」戦略のもと、2030年までに年間555万台の販売とEV200万台の達成を目指し、SUV分野でも電動化を加速することが見込まれています。
内部リンク:ヒョンデのEVはおすすめ?IONIQ5とKONAの特徴や価格を解説
BYD
BYDは、リーズナブルな価格ながら高性能な車種を展開している注目の自動車メーカーです。日本でのラインナップは2025年6月時点では、4種類あります。中でもSUVは、コンパクトSUVの「BYD ATTO 3」とクロスオーバーSUVの「BYD SEALION 7」の2種類です。
特に注目したいのは、2025年4月に登場した「BYD SEALION 7」です。「すべては技術で両立する」をコンセプトに、力強いデザインとエネルギー効率どちらもあわせたモデルといえます。
内部リンク:BYDのEVの魅力とは!リーズナブルなのに性能がよいのは本当?
SUVのEVによくある質問
ここでは、SUVのEVについてよくある質問をまとめました。
SUV EVはガソリンSUVと比べて維持費が安いですか?
SUVタイプのEVは、ガソリンSUVと比べて維持費が安い傾向にあります。主な理由は、電気代がガソリン代よりも安価だからです。
さらに、エンジンオイル交換などのメンテナンス項目が少ないことや、税制面での優遇措置があることも要因といえます。例えば、年間維持費は同クラスのガソリン車より数万円低くなるケースが多く、長期的に見てもコストメリットがあります。
なお、コストの比較について詳しく知りたい方は、以下の記事がおすすめです。
内部リンク:EVとガソリン車はどちらがお得?コストを徹底比較
SUV EVのバッテリー寿命や交換費用はどのくらいですか?
SUVタイプのEVのバッテリー寿命は、一般的に8年または16万kmが目安です。使用状況や車種によって差はありますが、多くのメーカーがこの期間を保証しています。
バッテリーの交換費用は、容量によりますが、100万円以上かかるケースもあります。一方、メーカー保証範囲内での故障や、バッテリー容量が一定基準以下に低下した場合は無償交換が可能です。交換時は保証についても確認しましょう。
家庭でも充電できますか?集合住宅でも設置可能ですか?
SUVタイプのEVは、家庭用の200Vコンセントや専用充電器を設置することで自宅充電が可能です。戸建て住宅では比較的容易に設置できますが、集合住宅の場合は管理組合の許可や共用設備の工事が必要になる場合がほとんどでしょう。
最近は、集合住宅向けの充電インフラ整備も進んでおり、充電器の設置事例も増えています。自宅に充電器を設置できない場合は、自宅近くの充電ステーションを利用しましょう。
まとめ
当記事ではSUVのEVについてお伝えしました。従来の機能性や走行性能を維持しつつ、EVならではのテクノロジーを実現した次世代のSUVは、今後もサステナビリティと快適性を両立した選択肢として市場をリードしていくことでしょう。
