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日本に馴染み深い「あるもの」で家を建てた、ハリウッド映画監督
ARCHITECTURE | 2022.06.17
建設業界に求められている、サステナビリティ
建設業界では、資源調達(木の伐採)や建築、解体といった事業活動の流れの中で、多くの二酸化炭素を排出している。
日本においても二酸化炭素総排出量のうち、約3分の1は建物のライフサイクルを通じて排出されたものと言われており、今、建設業界ではより持続可能な代替材料が求められている。
近年では環境に配慮した建物に住みたいという人も増え、ますますその需要が高まってきているというが、ハリウッド映画監督のSteve Barron氏もそのうちの一人。
なんと彼は、縄文時代から日本の生活文化を支えてきた「あるもの」を使い、自ら家を作ったのだという。
映画監督から農家への道
あるものとは「ヘンプ」、つまり麻である。
ハリウッドで映画監督や、The Human Leagueの「Don’t You Want Me」、Michael Jacksonの「Billie Jean」など人気アーティストのMVを数多く手がけてきたBarron氏だったが、60歳になった時、幼い孫娘のことを思い「地球のために何か意味のあることをしたい」という衝動に駆られたという。
その強い思いによって、BAFTA(英国アカデミー賞)ノミネート監督から「麻の栽培農家」へと転身。英・ケンブリッジシャー州に、広大なMargent Farm(マージェント・ファーム)を作るまでに至ったのだ。
どうすれば合法的にヘンプを栽培できるのか。
その手続きは簡単ではなかった。そもそも栽培の許可を得ることすら困難だった。
「BAFTAにノミネートされたときも、こんなスリルを感じることはなかった。もっと大事なことがあるはずだと思っていたんだ」と、彼は言う。
「ヘンプ」で作られた家
そして彼はついに、Margent Farmで初年度に収穫したヘンプを使い自身の家を建てた。
ヘンプは布として使用されるイメージだが、今では建材や食品・ヘルスケアなど様々な分野で活用されているのだ。
家の主な材料には、ヘンプの繊維を加工した「ヘンプコンクリート」を使用。普通のコンクリートに比べて取り扱いが容易で、断熱効果や吸湿効果などの利点があるという。外壁は耐久性の高い「波型ヘンプファイバーシート」で覆われている。さらに、持続可能なバイオマスボイラーと家庭用風力発電、ソーラーパネルによって電力を賄うという徹底ぶりだ。
Meet the film director who built his own house out of hemp https://t.co/PscMPD24EU
— Euronews Green (@euronewsgreen) June 10, 2022
ヘンプの活用で、循環型経済の推進を
農場では有機農法と再生農法を実践し、土、空気、水を大切にすることを心がけている。
また、ヘンプは栽培途中で光合成を行い二酸化炭素を吸収して酸素を放出するため、製造のライフサイクル全体で見ると温室効果ガス削減効果が期待できる。そのヘンプを材料として使用することで、低インパクトの循環型経済を推し進めたいと考えているのだそうだ。
Margent Farmでは、バッグなどの布製品を始め、建材や、乾燥肌に効果的な「ヘンプオイル」など、さまざまな製品を開発、販売している。
農業と建設業は、彼の本業とはかけ離れているように思うが「私の人生の主役である『創造力』を環境問題にも活かしているんだ」と、彼は言う。
たしかに、ヘンプに秘められた可能性を見出すには創造力が必要だった。5年前、彼がヘンプの研究を始めたとき、建築の青写真はほとんどなかったのだから。
Source :Meet the film director who swapped Hollywood for homegrown housing