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世界規模で進む水不足
地球温暖化による気候変動や環境汚染により、世界中で水資源が脅かされ、深刻な水不足に陥っている国は多い。
人口570万人、大小60以上の島からなるシンガポールもその一つ。
降水量は多いシンガポールだが、国土が狭くて保水力が乏しく、長年の間、隣国マレーシアからの水の輸入に頼ってきた。2002年の国連報告書では同国の淡水供給力は世界190カ国中、170番目。その頃から、政府は水問題の解決を最重要課題とし対策を推進してきたという。
そして貯水池の整備と同時に、更なる水の自給率向上を目指して研究開発を進めてきたのが、高度な下水処理システム。
この仕組みはシンガポールだけでなく、世界の水不足を解決する手がかりになるかもしれない。
"At a time when global warming threatens our water resources, Singapore recycles 40 percent of its wastewater and wants to push this percentage even further." https://t.co/BEHHxQpEUE via @euronewsnext #ABCCert
— Water Professionals International (@GO_WPI) September 16, 2021
廃水を無限にリサイクルする、下水処理システム
2003年に最初のプラントが稼働したというこの仕組みは、廃水を無限にリサイクルできる非常に高度な下水処理システムだという。
まず、下水道から流れてきた廃水は巨大なトンネルを通り、高水準の濾過装置によって細菌やウイルスなどの不純物が取り除かれる。その後紫外線による殺菌処理なども行われ、さらにきれいな水へと生まれ変わるのだそうだ。
そのほとんどの工程は地下で行われ、迷路のように張り巡らされたパイプや濾過システムにより、1日に9億リットルもの廃水を処理することができる。これは、例えばオリンピック競技で使用するプールを24時間365日いつも満たし続けるのに十分な量だそうだ。
このシステムにより、同国では廃水のリサイクル率を40%にまで伸ばすことに成功したという。また、海への排水が減ることで海洋汚染の軽減にも繋がっている。
「私たちは常に水源を探し、水の供給量を増やす方法を模索しています。私たちの水管理戦略は3つあります。1つ目は雨水を一滴残らず集めること、2つ目は無限に再利用すること、3つ目は海水の淡水化です」と、公益事業庁・水再生部門のLow Pei Chin氏は言う。
飲料水としても利用可能な再生水「NEWater」
このシステムの最も注目すべき点は、生み出された再生水が「NEWater(ニューウォーター)」と名付けられ、「飲料水」としても使用されているということ。
国連の推計によると、世界の廃水の約80%は処理や再利用されることなく生態系に逆流してしまっていて、約18億人もの人々が糞便で汚染された飲料水を使用。コレラ、赤痢、腸チフス、ポリオなどさまざまな感染症と隣り合わせの生活をしているという現状がある。
また、わずかな再生水も工業用に使用されているのがほとんど。
シンガポールでは廃水から「きれいな飲料水」を生み出していることから、世界とは対照的な好循環が生まれていると言えるだろう。
現在シンガポールには5つのNEWaterプラントがあり、国内の水需要の40%を供給。2060年までにはこれを最大55%まで伸ばすことが期待されている。
「同国内の水不足の克服」という当初の目標のためだけではなく、世界中でこのシステムが展開できれば、多くの命を助けることができるだろう。
Source :Still, sparkling or sewage? Singapore eyes turning waste into clean drinking water