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世界初、海底に広がるサステナブルな農園で食糧危機に立ち向かう

FOOD | 2022.03.22

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世界初、海底に広がるサステナブルな農園で食糧危機に立ち向かう

世界の食糧危機

人口増加や様々な環境問題により、食糧危機に苦しんでいる地域が多くある。
世界で今後ますます食糧不足が進むにつれ、食糧の多くを輸入に頼る日本もその影響を受けることは避けられないだろう。

世界の食糧危機とフードデザートを解決する、モジュール式垂直農園」や、「タクシーで野菜栽培・カエル養殖。蘇るタクシーの墓場 in タイ」で紹介したように、食糧危機の解決に向け様々な画期的なアイディアが生まれているが、イタリアでは、前代未聞の「ある場所」に農園が作られているという。

海底にある農園「ニモの庭」

「ニモの庭(Nemo’s Garden)」と呼ばれるこの農園はなんと、海底にあるのだ。

2012年にダイビング用品メーカーOcean Reef Groupの創業者、Sergio Gamberini氏の発案で作られたのが始まりで、バイオスフィアと呼ばれる複数のドーム型の温室を海に沈め、水耕栽培で果物や野菜を育てているという。

温室の素材は、太陽光が内部まで到達でき、水圧に耐え得るという透明のプラスチック。チェーンと特殊なアンカーで海底に固定されている。

当初は実験的にバジルが栽培されていたが、システムや技術の改良を重ね、今ではさまざまなハーブ類からトマト、イチゴ、グリーンピース、マッシュルーム、花に至るまで100種類以上もの植物が栽培されているそうだ。

豊富な水分と高濃度の二酸化炭素による水耕栽培

では一体、どのような仕組みで植物が栽培されているのだろうか?

まず、ドーム型の温室内部に空気を充満させた上で海底に設置。
この温室にはおよそ2,000リットルもの空気を入れることができ、温まった空気を内部にとどめる構造になっている。下の方には海水が入っていて、空気の層と水の層がある状態だ。
コップを逆さまにして水中に沈めた状態をイメージしてもらうと分かりやすいかもしれない。

して、その内部は驚くべき構造となっている。
全周にわたって螺旋状に棚が作られ、植物や、酸素・二酸化炭素・温度・湿度・照度を測定するセンサーなど、様々な設備が設置されているのだ。

温室内では、海水から真水を生成し、少量の栄養分を添加した上で植物に供給。また、高濃度の二酸化炭素も供給できる仕組みになっていて、豊富な水分と二酸化炭素を与えられた植物は地上よりも速いスピードで成長するという。

さらに極めつけは、無線通信システムも備えているということ。
陸地にあるコントロールタワーにいながら、温室内の状況をウェブカメラでモニタリングしたり、作業中の「農業従事者」(ダイバー)たちと交信することもできるのだという。 

環境にも優しい「ニモの庭」

海底でセンサーや通信システムなどの設備まで備えた水耕栽培を行うだけでもすごいことだが、それだけではない。
ニモの庭は、なんと環境にも配慮したサステナブルなシステムになっているのだ。

まず、水耕栽培システムで使用する水は海水から生成するため、真水源は必要ない。
現状世界の真水使用量の約70%を農業が占めていることを考えると、これは非常に重要なことだろう。

また、この温室では、環境破壊を引き起こす可能性のある農薬を使う必要もない。
水中では、植物の生育に影響を与える要因をコントロールしやすいため、地上の過酷な環境では栽培が難しい植物も育てやすいそうだ。

さらに、センサーやポンプなどに必要な電力はすべて太陽光発電で賄っているという。
ニモの庭は、実にサステナブルな自給自足型の農業システムなのだ。

「ニモの庭」の多様な可能性

今後ますます気候変動による影響が避けられない中、同社は、この海底農業システムが沿岸地域の食糧供給源になると考えている。
また、バジルの栽培から始まったこの農園だが、今ではその多様な可能性に世界中が注目。化粧品や医薬品業界からも関心が寄せられているそうだ。

ちなみに多くの人が勘違いしていると思うが、ディズニーの映画「ファインディング・ニモ」とは全く関係ないという。


Source :People are growing food in underwater greenhouses on the coast of Italy

Nemo’s Garden

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TEXT:
倉若太一 ( Instagram )

PLUGO JOURNALニュースライター。企業・利益中心の開発はいかがなものかと疑問を持ち始めました。いつまでもあると思うな親・金・資源。

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