一昨年のCES2020でソニーが自社製のEV「VISION-S」を参考展示したことを、当時の驚きとともに覚えているという方は多いだろう。
ただ、当時は「EV業界に参入するため」ではなく、EVに必要とされるさまざまな電子機器 ―センサー類、室内エンターテインメントシステムなどを開発するために、あくまでも「試験的に」作られたEVを発表したに過ぎなかった。
あれから2年、今年のCES2022ではソニーモビリティ株式会社として「EV業界に参入する」というサプライズを伴って「VISION-S 02」を発表。またまた大きな話題をさらった。
Sony pivots into cars with Sony Mobility and a Vision SUV prototype at CES 2022 https://t.co/wHXGAKYeNH pic.twitter.com/wjfpdDDkrB
— The Verge (@verge) January 5, 2022
電子機器メーカー、いや、スマートフォンメーカーによるEV参入はここ数年のトレンドだ。
iPhoneの製造を請け負っている鴻海(ホンハイ)もEV事業への参入を表明しているし、Appleにもその噂がある。理由は、カーボンニュートラル社会の実現に向けた機運の高まりから業界全体が右肩上がりであるというだけではない。エンジン車からEVへと転換することで、彼らの得意分野を活かすことができるからだ。
自動車といえば「垂直統合型」と言われる、メーカー(トヨタや日産)とその傘下のサプライヤー(部品製造メーカー)、そしてセラー(販売店)が一体となった業界構造が特徴的だ。情報の機密性、高い技術力の維持などメリットも大きいが、その巨体を維持するのは容易なことではない。新規参入など、なおさら難しい。
一方それがEVになるとどうか。EVとは要するに「バッテリー・モーター・タイヤ・車体」を組み合わせた大きなミニ四駆のようなものだ。ガソリンエンジンに比べると難易度の高いユニットが不要なため、電子機器メーカーであればこれまでの経験を活かして製造することができる。
さらにエンジン車にはないEVの特徴として、繊細な動力制御が可能というものもある。燃料の圧縮と気化(爆発)によって動いているエンジンと違い、モーターは比較的容易に電子制御できるため、自動運転との相性が良い。自動運転ということであれば、スマートフォンを製造しているメーカーならお得意の「カメラとセンサー」が本領を発揮できる。
ひとつ問題があるとすれば、それは彼らが「自動車の製造ノウハウも販売ルートも持っていない」ことだ。
しかしこれも、スマートフォン型の業界構造「水平分業型」によって解決できると見るカージャーナリストは多い。
テスラは旧来の自動車業界の慣例通りに垂直統合型だが、これから参入するソニーを始めとした「スマートフォンメーカー」のEVは設計と重要部品の製造のみを自社で行い、ほかのパーツや組み立てはサプライヤーに、販売は外部のセラーに委託するという製造方法を採用すると見られている。
こうして水平分業型で多くのサプライヤーやセラーが登場、成長していけば、今のスマートフォンがそうであるように決して「巨大企業」でなくともEVを作ることのできる未来が訪れるだろう。
ガソリン車よりも多様に、さまざまな人のニーズに合った細かなラインナップからお気に入りの一台を見つける時代が来るのかもしれない。
SOURCE :Sony pivots into cars with Sony Mobility and a Vision-S SUV prototype at CES 2022